付加金と訴額(印紙代)

Category - 未分類 作成者:友弘 克幸

割増賃金(いわゆる残業代)の未払いがある場合、労働者側としては訴訟(裁判)を起こすことになります。

(もちろん、請求手段としては訴訟以外にもありますが、ここでは本題から離れるので省略します。)

ところで、裁判所が判決で割増賃金の支払いを命じる場合、割増賃金と同額の「付加金」の支払いを命じることができるものとされています。(解雇予告手当、休業手当なども同様です。)

労働基準法114条(付加金の支払)

裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第7項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から2年以内にしなければならない。

条文に 「労働者の請求により」 とあるとおり、付加金の支払いを求めるには、労働者側が積極的に請求を行うことが必要になります。

(他方で、「裁判所は~支払を命ずることができる」となっているとおり、支払いを命じるかどうかは裁判所の裁量です。使用者側の悪質性などの事情に応じて、100%の金額が認められるケースもあれば、全く認められないケースもあります。私自身も実際に経験がありますが、「付加金として、割増賃金未払い額の50%に相当する金額の支払いを命じる」などという判決が出されることもあります。)

 

ところで、裁判を起こす場合には、裁判所に、所定の手数料を納める必要があります。

(通常、裁判所に提出する訴状に、必要な金額の収入印紙を貼り付けます。)

手数料の金額は、事件の経済的価値(訴訟の目的の価額=訴額といいます)に応じて決められていて、

金銭の支払いを命じる場合には、請求する金額が訴額になるのが原則です。

たとえば、100万円の支払いを求める裁判なら1万円、500万円なら3万円、5000万円なら17万円、などとなります。

ただし、本来の支払期日から支払いが遅れたことによる「遅延損害金」などは、「付帯請求」と呼ばれ、訴額には算入されないことになっています(民事訴訟法9条2項)。

民事訴訟法9条2項

果実、損害賠償、違約金又は費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額は、訴訟の目的の価額に算入しない。

 

さて、ここで問題になるのが「付加金」の扱いです。

たとえば、割増賃金(残業代)の金額が100万円の場合、労働者側としては、残業代100万円とともに

付加金100万円の支払いを請求することになります。

この場合の「訴訟物の価額」は、100万円なのか、それとも200万円なのか。

実は、これまでは裁判所ごとで取り扱いが異なっており、たとえば東京地裁では「100万円」とし、

大阪地裁では「200万円」として計算していました(→以前の記事)。

この問題について、平成27年5月19日付けで、最高裁判所が統一的な判断を示しました。

(事案自体は休業手当に関する事件だったようですが、内容は「付加金」一般についての判断です。)

 

結論からいうと、「東京方式」を支持し、「大阪方式」を否定しました。

(最高裁決定を受けて、大阪地裁は運用を変更したようです。)

理由について関心のある方は後記の決定文をお読みいただきたいのですが、

いずれにせよ、大阪で割増賃金(残業代)を請求する場合に、訴訟を起こす場合の経済的負担が軽くなったのは喜ばしいことです。

 

(最高裁判所ホームページより)

平成26(許)36  手数料還付申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
平成27年5月19日  最高裁判所第三小法廷  決定  破棄自判  (原審:大阪高等裁判所)

1  本件は,使用者を相手に雇用契約上の地位の確認等を求める訴訟(以下「本 案訴訟」という。)を提起した抗告人が,本案訴訟において労働基準法26条の休 業手当の請求及びこれに係る同法114条の付加金の請求(以下「本件付加金請 求」という。)を追加する訴えの変更をした際に,本件付加金請求に係る請求の変 更の手数料(民事訴訟費用等に関する法律3条1項,別表第1の5項,4条1項) として4万8000円を納付した後,付加金の請求の価額は民訴法9条2項により 訴訟の目的の価額に算入しないものとすべきであり,上記手数料は過大に納められ たものであるとして,民事訴訟費用等に関する法律9条1項に基づき,その還付の 申立てをした事案である。

2  原審は,労働基準法114条の付加金は民訴法9条2項にいう損害賠償又は 違約金に当たるとは解されず,同項にいう果実又は費用にも当たらないことは明ら かであるから,付加金の請求について同項の適用はなく,本件付加金請求の価額は 訴訟の目的の価額に算入するのが相当であるとして,上記還付の申立てを却下すべきものとした。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次 のとおりである。

  訴訟の目的の価額は管轄の決定や訴えの提起等の手数料に係る算定の基準とされ ているところ,民訴法9条2項は,果実,損害賠償,違約金又は費用(以下,併せ て「果実等」という。)の請求が訴訟の附帯の目的であるときは,その価額を訴訟 の目的の価額に算入しない旨を定めている。同項の規定が,金銭債権の元本に対す る遅延損害金などのように訴えの提起の際に訴訟の目的の価額を算定することが困難な場合のみならず,それ以外の場合を含めて果実等の請求をその適用の対象として掲げ,これらの請求が訴訟の附帯の目的であるときはその価額を訴訟の目的の価 額に算入しないものとしているのは,このような訴訟の附帯の目的である果実等の 請求については,その当否の審理判断がその請求権の発生の基礎となる主たる請求の当否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われることなどに 鑑み,その価額を別個に訴訟の目的の価額に算入することなく,主たる請求の価額のみを管轄の決定や訴えの提起等の手数料に係る算定の基準とすれば足りるとし, これらの基準を簡明なものとする趣旨によるものと解される。

  しかるところ,労働基準法114条は,労働者に対する休業手当等の支払を義務 付ける同法26条など同法114条に掲げる同法の各規定に違反してその義務を履 行しない使用者に対し,裁判所が,労働者の請求により,上記各規定により使用者 が支払わなければならない休業手当等の金額についての未払金に加え,これと同一 額の付加金の労働者への支払を命ずることができる旨を定めている。その趣旨は, 労働者の保護の観点から,上記の休業手当等の支払義務を履行しない使用者に対し 一種の制裁として経済的な不利益を課すこととし,その支払義務の履行を促すこと により上記各規定の実効性を高めようとするものと解されるところ,このことに加 え,上記のとおり使用者から労働者に対し付加金を直接支払うよう命ずべきものと されていることからすれば,同法114条の付加金については,使用者による上記 の休業手当等の支払義務の不履行によって労働者に生ずる損害の塡補という趣旨も 併せ有するものということができる。そして,上記の付加金に係る同条の規定の内 容によれば,同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされる付加金の請求につき,その付加金の支払を命ずることの当否の審理判断は同条所定の未払金の存否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われるもの であるといえるから,上記のような付加金の制度の趣旨も踏まえると,上記の付加金の請求についてはその価額を訴訟の目的の価額に算入しないものとすることが前記の民訴法9条2項の趣旨に合致するものということができる。

 以上に鑑みると,労働基準法114条の付加金の請求については,同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは,民訴法9条2項にい う訴訟の附帯の目的である損害賠償又は違約金の請求に含まれるものとして,その 価額は当該訴訟の目的の価額に算入されないものと解するのが相当である。

4  これを本件についてみるに,抗告人は,本案訴訟の第1審において,労働基準法26条の休業手当の請求とともにこれに係る同法114条の付加金の請求をし たのであるから,本件付加金請求の価額は当該訴訟の目的の価額に算入されないも のというべきである。したがって,本件付加金請求に係る請求の変更の手数料とし て納付された4万8000円は過大に納められたものであるといえるから,これを 抗告人に還付すべきこととなる。

5  以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違 反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄を免れ ない。そして,以上説示したところによれば,抗告人の手数料還付の申立ては理由 があるから,これを却下した原々決定を取り消し,抗告人に対し4万8000円を 還付することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。