10/17 パワハラ(講演報告)

Category - お知らせ 作成者:友弘 克幸

10月16日に、大阪労働者弁護団で「パワハラ」について講演してきました。

ご参加くださった皆さん、どうもありがとうございました。

以下、私の備忘もかねて、ごく簡単に、お話ししたことの一端をご紹介したいと思います。

 

★「パワハラ」が裁判で問題になるケースとしては、大きく分けて

(1)配置転換命令などが嫌がらせ目的でなされたとして、その有効性が争われるケース

(2)パワハラを受けた労働者が精神障害を発症し(さらに自殺する場合もある)、労災を申請するケース、

(3)パワハラを受けた労働者(自殺した場合はその遺族)が加害者や使用者に損害賠償を請求するケース、

の3つがありますが、今回は(3)のケースを中心にお話ししました。

★「パワハラ」という言葉は2001年に日本で作られた造語(和製英語)です。

きちんとした定義がないまま、言葉が一人歩きしていたきらいがありましたが、厚労省の設置した会議が2012年に報告書を発表するなど(→こちら)、少しずつ、議論が整理されてきているのかなという印象です。

裁判例では、東京地裁H24.3.9判決(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件)が、

「パワーハラスメントを行った者とされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、『企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・乱用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容しうる範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為』をしたと評価される場合に限り、被害者の人格権を侵害するものとして民法709条所定の不法行為を構成するものと解するのが相当である」

と判示したのが注目されます。

★講演では、もっとも「違法」と「違法でない」の線引きが難しそうな、「上司の発言」を取り上げて、不法行為と判断された裁判例をいくつか紹介しましたが、上記判示を参考に整理をするならば、次のように整理できると思います。

発言内容について

(1)業務と関係がなく、自分の力で変えようのない容貌についての揶揄・からかい

例:太っている労働者に対して「むくみ麻原」などと発言 (川崎市水道局いじめ自殺事件=横浜地裁川越支部H14.6.27、東京高裁H15.3.25)

(2)「組織にとって不要」など、労働者の存在そのものを否定する表現

例:「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」「当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです」「これ以上、当SCに迷惑をかけないでください」(A保険会社事件=東京高裁H17.4.20判決)

例:「辞めてしまえ」「足引っ張るばあすんじゃったら、おらん方がええ(足をひっぱるばかりならいない方がいいの意)」(トマト銀行事件=岡山地裁H24.4.19判決)

(3)「~失格」などの表現

例:「バカかお前は。三曹失格だ」(海上自衛隊自殺事件=福岡高裁H20.8.25判決)

「主任失格」(※名古屋南労基署長(中部電力)事件=名古屋高裁H19.10.31判決)

※労災の事案

(4)精神疾患に罹患したことそのものを非難するような表現

例:「うつ病みたいな辛気臭い奴はいらん」(ヴィナリウス事件=東京地裁H21.1.16判決)

(5)家族のことを中傷する表現

例:(妻について)「よくこんな奴と結婚したな。物好きもいるもんだ」(日本ファンド事件=東京地裁H22.7.27)

例:「存在が目障りだ、いるだけでみんなが迷惑している、お前のカミさんの気が知れん」(※静岡労基署長(日研化学)事件=東京地裁H19.10.15判決)

※労災の事案

発言の時間・場所・態様について

(1)労働者の夏季休暇日の午後11時に、携帯電話の留守番電話に「ぶっ殺す」等と録音した例(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件=前掲)

(2)逃げ場のない閉鎖的な空間で継続的に激しい言葉が浴びせられた例(海上自衛隊自殺事件=前掲)

(3)叱責のメールを、労働者本人のみならず職場の十数人に同時に送信した例

(A保険会社事件=前掲)

★慰謝料額について

裁判で認められる慰謝料額については、次のような傾向があるようです。

・「身体的暴力」を伴うものほど、高額となりやすい。

・隔離や仕事外しの事案では、その期間が長引くほど慰謝料は高額となる。

・単なる「精神的苦痛」でも慰謝料は認められるが、「うつ病」「適応障害」など精神障害を発症したケースのほうが慰謝料は高額となる。

・・・まあ、どれも言われてみれば当たり前という話ではあるので、これについてはいずれ、どんな要素がどれくらい考慮されているのか、もう少し研究したいと思っています。

★パワハラ防止義務について

雇用契約に付随して使用者は安全配慮義務を負いますが(労働契約法5条)、その一環として「パワハラ防止義務」を観念することができます。

このことを明示したのが、日本土建事件(津地裁H21.2.19)です。

もちろん、直接の雇用関係がなくても、このような義務が生じうることは、一般の安全配慮義務と同様です(派遣につきヨドバシカメラ事件=東京地裁H17.10.4、「長期出張」事案で出張先会社の安全配慮義務につき、トヨタ自動車ほか事件=名古屋地裁H20.10.30)

★過失相殺規定の類推適用について

パワハラによる損害賠償請求の事案で、被害者側の資質や心因的要因を考慮して賠償額を減額する裁判例(川崎市水道局事件=前掲、トヨタ自動車ほか事件=前掲、京都消費者金融会社うつ病事件=京都地裁H18.8.8)もありますが、

電通事件最高裁判決(H12.3.24)の判示から考えると、「労働者側の性格」を理由に、安易に賠償額を減額するというのはおかしいのではないか、という点についても述べました。

★諸外国の動向について

1990年代、「グローバリゼーション」の進展とともに職場におけるいじめの問題が注目され、1996年にはEUが調査を開始。

2002年にはフランス、ベルギーで「職場におけるハラスメント」を禁止する立法がなされるなど、先進的な取り組みがなされているそうです。

2006年にはILOが「職場におけるいじめは、国によっては流行病的レベルに達している」との報告書を発表。

→ 日本における取組は、まだ始まったばかりということです。