2013/06/19 「規制改革」は誰のため?(補足あり)

6月14日、安倍内閣が「規制改革実施計画」を閣議決定しました。

「規制改革会議」が6月5日に行った答申「規制改革に関する答申~経済再生への突破口~」をもとにしたものです。

規制改革会議には「健康・医療」「エネルギー・環境」「雇用」「創業等」の4つのワーキンググループ(WG)が置かれています。

「答申」は、それぞれのWGからの報告書を1つにまとめたものということになるわけですが、私が注目したのは「雇用」の部分、とりわけ

「裁量労働制」

の部分です。

まず、「答申」のもとになった雇用WGの報告書では、次のようなくだりがありました。

2.雇用改革の「3 本柱」と理念・原則
「人が動く」ための具体的な雇用改革の3本柱が、①正社員改革、②民間人材ビジネ
スの規制改革、③セイフティネット・職業教育訓練の整備・強化である。

(1)正社員改革
第一の柱である正社員改革では、本人の希望に合った多様で柔軟な働き方を促進することが、ひいては「人が動く」ことにつながる。日本の正社員は、①無期雇用、②フルタイム、③直接雇用、といった特徴のみならず、職務、勤務地、労働時間(残業)が特定されていない無限定正社員という傾向が欧米に比べても顕著である。

また、無期雇用、無限定社員、雇用終了ルールである解雇権濫用法理の三要素は、
相互に強い補完性を有し、正社員改革を困難にしてきた。

このため、正社員改革の第一歩として、職務、勤務地、労働時間等が特定されている「職務等限定正社員」、いわゆるジョブ型正社員を増やすとともに、その雇用ルールの整備を早急に進めるべきである(ジョブ型正社員の概要については別紙1参照)。

さらに、労働時間規制の見直しも重要な課題である。

多様で柔軟な働き方を拡大する観点から、企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制の見直し等を進めるとともに、今後、ワークライフバランスや生産性向上の観点からの見直し、時間外労働の補償のあり方(金銭補償から休日代替へ、労働時間貯蓄制度の整備)、労働時間規制に関する各種適用除外と裁量労働制の整理統合なども視野に入れて検討すべきである。(以下略)

 

「企画業務型裁量労働制の見直しを進める」とありますが、これだけ見ると、どういう方向で見直すのかはっきりしません。

が、「答申」では、次のようになっています。

 

②企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制等労働時間法制の見直し【平成
25 年上期調査開始、平成25 年秋検討開始、1年を目途に結論、結論を得次
第措置】
個々の労働者のライフスタイルに合わせて労働時間に拘束されずにその能
力を最大限発揮できるよう、多様で柔軟な働き方の実現のための環境整備が
求められている。

現状では、例えば、企画業務型裁量労働制の適用労働者の
割合は調査対象企業の労働者の0.3 パーセント、フレックスタイム制の適用
労働者の割合は同7.8 パーセントに留まるなど、企画業務型裁量労働制やフ
レックスタイム制の活用が進んでいるとは言い難い。

企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制を始め、時間外労働の補償の在り方、労働時間規制に関する各種適用除外と裁量労働制の整理統合等労働時間規制全般の見直しが重要な課題となっている。

ワークライフバランスや生産性向上の観点から、企画業務型裁量労働制や
フレックスタイム制を始め、労働時間法制について、企業における実態調査・
分析に基づき労働政策審議会で総合的に検討する。

これで、規制改革会議の真の狙いが明らかになっているといえるでしょう。

要するに、

企画業務型裁量労働制をもっと(使用者にとって)使い勝手の良いものにしよう

というわけです。

そもそも企画業務型裁量労働制とは、

事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う労働者

を対象とした制度で、この制度の適用対象となった労働者については、

実際の労働時間と関係なく、決議で定めた時間労働したものとみなされる

ということになります。(厚生労働省ホームページ

要するに、仮に1日に12時間働いても、あらかじめ労使委員会で「1日8時間労働したものとみなす」と決議しておけば、使用者は残業代を支払わなくてよいということになるわけです。

通常の労働者であれば、1日に12時間働けば、法定労働時間(8時間)を超えた分について4時間分の残業代(割増賃金)を支払わなければなりませんから、使用者にとっては、企画業務型裁量労働制の適用を拡大することは、

残業代(人件費)の節約につながる

わけです。

「答申」は、「企画業務型裁量労働制の適用労働者の割合は調査対象企業の労働者の0.3 パーセントに留まる」ことを指摘して、あたかもそれが「問題」であるかのように述べていますが、これは

とんでもないミスリード

です。

「企画業務型裁量労働制の利用が進んでいない」のではなく、そもそも、

仕事の進め方について、裁量労働制を適用できるような「裁量」を与えられている労働者の数そのものが、実態として少ない

のです。

労働者は、使用者からの指揮命令を受けて仕事をしています。

使用者から指示された仕事は断れないので、仕事量が所定労働時間内でこなせないくらいの量であれば、明確に「今日は残業して○○の業務を行うように」とは命令されなくとも、

時間内に仕事が終わらないから、残業してこなさざるを得ない

ということになりがちです。

「一定の時刻に退勤しなければならない」と定めたとしても、仕事の量自体が減らされなければ、それは事実上、自宅での持ち帰り残業を指示されているのと変わりません。

その意味で、

仕事の進め方について本当に「裁量」のある労働者など、ごくごく一部に限られている

のです。

労働者の置かれた状況を踏まえずに、労働時間規制を緩めるような「改革」を行うことは、

ワークライフバランスや生産性の向上

どころか、

国際的に見ても異常な 日本の長時間労働・過労死 を促進する

ことにつながるだけでしょう。

今後の動向に、注意する必要があると思います。

 

★2013年7月19日 補足

この問題について、日本弁護士連合会(日弁連)、7月18日付で、

「日本再興戦略」に基づく労働法制の規制緩和に反対する意見書

を公表し、政府に提出しました。

いかに今回の「規制緩和」が労働者の人権を侵害し、社会正義に反するものであるかが詳細に指摘されていますので、ぜひ、ご一読いただきたいと思います。

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★2013年7月24日 補足

順番が逆になってしまいましたが、日本労働弁護団も、雇用に関する今回の「規制緩和」について、反対する決議を行い、公表しています。

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