7/31 落雷と安全配慮義務

Category - 最近のニュースから 作成者:友弘 克幸

★昨年8月、大阪市東住吉区の長居公園であった人気アーティストの野外コンサートを訪れた際、落雷事故で死亡した北九州市の会社員(当時22歳)の両親が30日、「落雷を予見できたのに、避難誘導などの対応を怠った」として、イベント運営会社2社に約8100万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴したとのニュースが出ていました。

http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20130731-OYO1T00333.htm?from=main2

★読売の記事にも出ていますが、スポーツの試合での落雷事故については、先例となる裁判があります。

高校生のサッカー部員が監督(教員)に引率され、課外のクラブ活動としてサッカーの試合に出場した際、落雷によって負傷し、重い後遺障害が残ったという事案です。

生徒側は、高校と試合の主催者(財団法人)に対して、損害賠償を請求しました。

これについて、当初の控訴審判決(高松高裁平成16年10月29日判決・判例時報 1913号66頁)は、次のようなことを述べて、生徒側の請求をしりぞけました。

まず、高校の責任については、

「社会通念上,遠雷が聞こえていることなどから直ちに一切の社会的な活動
を中止又は中断すべきことが当然に要請されているとまではいえないところ,平均的なスポーツ指導者においても,落雷事故発生の危険性の認識は薄く,雨がやみ,空が明るくなり,雷鳴が遠のくにつれ,落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったと考えられるから,平均的なスポーツ指導者が第2試合の開始直前ころに落雷事故発生の具体的危険性を認識することが可能であったとはいえない

そうすると,引率教諭においても,上記時点で落雷事故発生を予見することが可能であったとはいえず,また,これを予見すべきであったということもできない。

したがって,引率教諭が安全配慮義務を尽くさなかったということはできないから,高校に債務不履行責任又は不法行為責任があるということはできない。」

また、試合を主宰していた財団法人(協会)については、

「協会は,その加盟団体であり権利能力なき社団であるC連盟が本件大会を実施するに当たり,名目的に本件大会に関与したものにすぎないから,C連盟が本件大会の主催者であり,協会は本件大会の主催者ではない。」

と。

★ところが、最高裁第二小法廷は、次のように述べて、高裁判決を破棄し、審理を高松高裁に差し戻しました(最高裁平成18年3月13日判決)。

引率教諭の責任について

「教育活動の一環として行われる学校の課外のクラブ活動においては,生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから,担当教諭は,できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し,その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り,クラブ活動中の生徒を保護すべき注意義務を負うものというべきである。

前記事実関係によれば,落雷による死傷事故は,平成5年から平成7年までに全国で毎年5~11件発生し,毎年3~6人が死亡しており,また,落雷事故を予防するための注意に関しては,平成8年までに,本件各記載等の文献上の記載が多く存在していたというのである。

そして,更に前記事実関係によれば,A高校の第2試合の開始直前ころには,本件運動広場の南西方向の上空には黒く固まった暗雲が立ち込め,雷鳴が聞こえ,雲の間で放電が起きるのが目撃されていたというのである。そうすると,上記雷鳴が大きな音ではなかったとしても,同校サッカー部の引率者兼監督であったB教諭としては,上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり,また,予見すべき注意義務を怠ったものというべきである

このことは,たとえ平均的なスポーツ指導者において,落雷事故発生の危険性の認識が薄く,雨がやみ,空が明るくなり,雷鳴が遠のくにつれ,落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても左右されるものではない。

なぜなら,上記のような認識は,平成8年までに多く存在していた落雷事故を予防するための注意に関する本件各記載等の内容と相いれないものであり,当時の科学的知見に反するものであって,その指導監督に従って行動する生徒を保護すべきクラブ活動の担当教諭の注意義務を免れさせる事情とはなり得ないからである。」

財団法人(被上告協会)の責任について

「前記事実関係によれば,① 被上告協会は,大阪府教育委員会の認可を受けて設立されたスポーツ振興等を主な目的とする財団法人であるが,その加盟団体であり権利能力なき社団であるC連盟に,本件実行委員会を設置させて,本件大会を開催した,② 高槻市から本件運動広場の貸与を受けていたのは,被上告協会であった,③ 本件大会のパンフレットには,主催者として「財団法人Y2協会C連盟」という名称が記載されていたというのであるから,特段の事情のない限り,被上告協会は本件大会の主催者であると推認するのが相当である。

そして,被上告協会の加盟団体であり権利能力なき社団であるC連盟が本件大会の実施を担当していたからといって,上記特段の事情があるということはできない。

そうすると,前記事実関係に基づいて被上告協会が本件大会の主催者ではないとして被上告協会の損害賠償責任を否定した原審の認定判断には,経験則に違反する違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。」

結局、裁判は、差し戻し後の高松高裁(平成20年9月17日判決)で、高校と協会(財団法人)に連帯して3億円余りの損害賠償を命じる判決が言い渡され、それが確定しています。

★「安全配慮義務」については、もともと、「労災事故が起こった時の使用者の責任」を問うための法理として出発し、現在では、労働契約法5条でも明文化されています。

また、学校事故についても、上記のサッカー落雷事故に関して最高裁の判断が示され、かなり議論が整理されてきました。

今回の提訴は、以上の2類型とは異なり、「(スポーツの試合などでない)屋外イベント主宰時における主催者の責任」を問うもので、この新しい類型の事案について裁判所がどのような判断をくだすか、大変注目されるところです。

★なお、関心のある方は、最近出版されたばかりの

髙橋眞 著「続・安全配慮義務の研究」(成文堂)

をお読みいただければと思います(専門家向けですが)。

落雷事故事件の平成18年最高裁判決の分析を含め、「安全配慮義務」全般について非常に精緻な分析がなされています。