3/16 「常用代替防止」
3月11日に、労働者派遣法の改正案が閣議決定されました。
政府・与党は、今国会での成立を目指しているとのことです。
これまで、派遣法は「常用代替防止」が原則だとされてきましたが、
今回の改正はそれを事実上放棄するもので、とうてい容認できません。
・・・ところで、「常用代替防止」って、分かっている人にはわかるキーワードですが、
説明なく使うのはちょっと不親切なのでは?と前から思っていました。
労働組合の声明文などを見ても、
何の説明もなく「常用代替防止」が出てくることがあるのですが、
社会に広く派遣法の問題点を知ってもらうためには、
これではいけないと思うのです。
「常用代替防止」とは「常用労働者の代替防止」の略で、つまり、
「常用労働者が派遣労働者によって置き換えられることの防止」
のことです(小畑史子・緒方桂子・竹内(奥野)寿「労働法」194頁)。
「常用代替防止」は、「直接雇用の原則」と表裏一体の考え方です。
「直接雇用の原則」とは、「使用者は、労働力を必要とするときは、みずから労働者を雇用して労働力を調達しなければならない」という原則のことですね。
なぜそういう原則が大切かと言えば、
もし労働者・使用者の関係に第三者が介入してきてしまうと、
誰が「使用者としての責任」を負うのか曖昧になってしまったり、
第三者が関与することで、不当な「ピンハネ」が行われてしまって、結局は
労働者が割を食ってしまうからなのですよ。
だから、今までの労働者派遣法では、企業が「派遣さん」を使えるのは
あくまで臨時的・一時的な業務とか、
専門的な業務とかに限ってのことだったわけです(少なくとも建前上はね)。
それが今回の改正案では、そういうややこしい制限をもろもろとっぱらって、
企業が「派遣さん」をぐんと使いやすいようにしちゃおう!
という内容になっています。
(すみません、ここの細かい内容を説明しだすと今回の目的から外れるので、
細かい説明は日本労働弁護団の声明とか見てください。)
もしこの改正案が通ればどうなるかといえば、
企業は、これまで直接雇用の従業員(主に正社員)に担当させていた業務のうち、
かなりの部分を「派遣さん」に任せることができるようになります。
これこそ、「常用労働者が派遣労働者によって置き換えられる」、
つまり、「常用代替」です。
与党は
「派遣さんだって、派遣元(=人材派遣会社)に無期雇用されていれば、
雇用は安定してるから大丈夫!」
などといっているようですが、それは違うと思うのです。
連合のホームページに分かりやすく説明されていますが、
5年前の「リーマンショック」のとき、
派遣元に無期雇用されていた派遣労働者(登録型)4401人のうち、
リーマンショック後(正確にいうと2009年4月14日)まで
雇用が継続されたのは、わずか987人(22.4%)。
残りの3392人(77.1%)は全て職を失ったわけですが、その大部分は「解雇」されました。
考えてみていただきたいのですが、
仮に、日本の全ての企業の正社員の8割近くが「解雇」されたとしたら、
社会は大変な大混乱におちいると思いませんか?
ということは、上に書いた数字は、実はとんでもない事態で、
下手をすれば社会全体を大混乱におちいらせかねない事態です。
外国だったら、8割の人が失職すれば、暴動が起きても不思議でないと思います。
2008年年末の「年越し派遣村」で起こっていたことは、そういうことだったわけです。
もし、これを読んでいる正社員の方で、
「自分は正社員だから、労働者派遣法なんて関係ないさ」
と考えている方がいらっしゃたら、考え直してほしいなと思います。
あなたの仕事も、あと5年後には「派遣さん」がやっているかもしれません。
あと10年後、あるいは20年後、あなたの子や孫が学校を卒業したとき、
求人は派遣社員の仕事しかありません、ということになっているかもしれません。
特に正社員の方々に、「人ごと」と思わず、ぜひ関心を持ってほしいと思います。
ちなみに大阪労働者弁護団では、他の法律家団体と共催で、
4月14日に集会を開きます。(→これ)
少しでも関心をお持ちいただけたなら、参加してみてください。
お待ちしています。