8/2 菅野和夫・東大名誉教授のインタビュー
今日の朝日新聞朝刊に、菅野和夫・東大名誉教授のインタビューが掲載されていました。
菅野和夫先生といえば、労働政策審議会会長、中央労働委員会会長などを歴任された労働法の大家で、労働審判法(平成16年4月28日成立、平成18年4月1日施行)の成立にも大きな役割を果たした方です。
おそらく現在でも最も影響力のある労働法学者であることは間違いないでしょう。
で、その菅野先生がおっしゃっている内容が、まず
「解雇権濫用法理を明文化した労働契約法16条は、『不合理な解雇や不相当な解雇は無効』という当たり前のルールを定めたもの。変更の余地はない」
「整理解雇に関する判例法理のもとでは解雇は制約されるが、広範な人事権を手にするので企業側にもメリットがあるルール。
『整理解雇をしやすくしてくれ』というだけでは、いいとこどりだ」
という点。
単に使用者にとって窮屈だから、という理由だけで、「解雇しやすい制度」にすることは誤りであることを明快に指摘されています。
また、政府の規制改革会議が普及を提案している「限定正社員」についても、
「社員区分をどうつくって、どう処理するかは、労使が決めること。
国が決めることではない。
政府の役割は、好事例を調査して情報を提供することだ」
「限定正社員にも労働契約法16条は適用される。
勤務地が限定された正社員でも、働いていた支店がなくなったからといって、
当然のように解雇できるわけではない。
他に異動できるか、本人の希望や適性も踏まえながら検討しなくてはいけない。
解雇ルール自体を、地域限定の有無で異なるものとするようなことは乱暴だと思う」
と述べて、批判しておられます。
何十年と労働法学会をリードしてこられた先生のご意見として、ぜひ政府にもきちんと耳を傾けて欲しいものです。
★なお、限定正社員についてさらに補足しておくと、
現在の法制度のもとにおいても、使用者が「限定正社員」制度を導入することは可能です。
というのは、使用者が定める「就業規則」に、
「当社の従業員は、通常正社員と限定正社員とする。
通常正社員の労働条件は~
限定正社員の労働条件は~」
という具合に決めることは、禁止されていないからです。
現に、2013年5月26日付け朝日新聞「記者有論」の記事(沢路毅彦編集委員)
によれば、衣料品店を展開する「しまむら」では、パート社員について
「1週間の労働時間は5日勤務で原則31時間、
60歳定年までの無期雇用、勤務先は自宅から通勤できる範囲で」
と就業規則で定めているそうです。
就業規則は、内容が合理的なものである必要はありますが(労働契約法7条)、基本的には、労働者側の「意見」を聴取すれば、「同意」まで得なくても、使用者側だけで作成することができます(労働基準法90条)。
要するに、菅野先生もおっしゃるように、わざわざ「限定正社員」などという制度を法律上の制度として導入する必要はないわけです。
そんなことをすれば、「限定正社員は解雇しやすい」などとという誤った理解が広まるだけだと思います。
百害あって一利なしとはこのことです。