9/27 日経が想定している労働者像
今朝(9月27日)の日経1面に、裁量労働制に関する報道が出ていました。
コメントするのも馬鹿らしい内容なので放っておこうかとも思いましたが、今日、厚生労働省で開かれた労働政策審議会・労働条件分科会で、「企画業務型裁量労働制とフレックスタイム制度の見直し」についての議論が始まったそうなので、やっぱり書いておこうと思います。
日経の記事は次のようなものです。
裁量労働制を拡大 働く時間柔軟に(日経)
厚生労働省は労働規制の緩和の一環として、働く時間を労働者が柔軟に設定できる「裁量労働制」を拡大する方針を固めた。
企業で業務の企画・立案、調査などを担う社員に幅広く適用できるようにする。
長時間労働が広がると警戒する声も根強いが、個人のワークライフバランスの改善につながる利点もある。
(中略)裁量労働制は実際の労働時間とは関係なく、一定時間働いたと事前にみなして賃金を計算する。深夜早朝や休日の手当は発生する。
コピーライターや弁護士など専門職が対象の「専門業務型」と、経営企画や調査・財務担当者向けの「企画業務型」の2種類がある。
厚労省は裾野が広い企画業務型の対象を広げる。
労働時間を前提にした従来型の働き方では、同じ成果を短時間で上げた社員よりも残業した社員の方が給与面で有利だった。
社会全体で常態化している長時間労働を改善するには、労働時間にかかわらず、成果をあげた人を評価する仕組みが必要になっている。
裁量労働制では、たとえば労使がみなし労働時間を「1日10時間」とした場合、10時間より長くても短くても会社は10時間分の賃金を払えばよい。
「1日8時間」を超えた2時間分の残業代はあらかじめ固定給に含めておく。
ただし、深夜や休日には割増賃金が出る。
みなし労働時間以上働いても残業代は増えないので、働く人が短時間で仕事を終えようという動機付けになる。
健康への悪影響を防ぐと同時に仕事の効率が高まるとされる。その分、余暇や家庭生活にあてる時間を増やすことにもつながる。(以下略)
この記事から、日経の「労働者」観が見て取れますね。
要するに、
「仕事を短時間で仕上げてしまったら残業代がもらえなくなって損をするので、わざと日中にサボタージュして、残業代を稼ごうとする」
ような、実に不届きものの労働者ですよね。
そういう労働者観に立つのであれば、裁量労働制の拡大は、
「みなし労働時間以上働いても残業代は増えないので、働く人が短時間で仕事を終えようとする動機づけになる」
という発想になるわけです。
しかし、これはあまりに現実を無視した議論ではないでしょうか。
少なくとも私が労働相談で出会うのは、所定労働時間内ではこなせないような量の仕事(量・期限)を命じられて、やむなく長時間労働をせざるを得ない労働者であり、場合によっては、「持ち帰り残業」まで余儀なくされる労働者です。
むろん、残業代の不払い(いわゆるサービス残業)も横行しています。
有給休暇だって、制度としてあるのは知っていても、実際には取れません。
「残業代を稼ぐために日中サボタージュ」できるような緊張感のない職場なんて、もはやこの国には存在しないんじゃないでしょうか。
何度でも同じことを書きますが、仕事の量と期限は使用者が決めるのです。
どれだけ仕事を命じても8時間分しか賃金を払わなくて良い、ということになれば、使用者は、できるだけたくさんの仕事を命じなければ損だ、と考えるでしょう。
それは、使用者個人が悪人だからではなく、合理的に考えればそうなってしまうからです。つまり制度自体の欠陥です。
現実の労働時間を無視して、「みなし労働時間」とする裁量労働制は、根本的に間違った制度です。
ましてや、「裁量労働制をとれば健康への悪影響を防ぐと同時に仕事の効率が高まると『される』」なんて書いていますが、どこの誰がどんな根拠でそういうことを言っているのでしょうか。ちゃんと出所を明示してもらいたいものです。
日弁連の意見書も、裁量労働制の問題点を鋭く指摘していますので、ぜひ一読していただきたいです。