歩道での自転車事故の責任と過失割合は?
歩道上で発生した自転車事故については、基本的には歩行者には過失がないとされますが、保険会社から過失相殺の主張をされることが少なくありません。
歩道上で発生した自転車の交通事故について、自転車と歩行者の交通事故、自転車同士の交通事故の過失割合を解説します。
自転車は歩道を通行できるの?
自転車は原則として歩道を通行できない
自転車は歩道等と車道の区別のある道路においては車道を通行しなければなりません。
道路交通法17条1項では「車両は、歩道又は路側帯(以下この条において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない」と定められています。
自転車も「車両」にあたるため(道路交通法2条1項8号、11号)、車道を通行しないといけないのです。
道路交通法第17条第1項
罰則:3月以下の懲役又は5万円以下の罰金
自転車は、歩道と車道の区別のある道路では、車道を通行しなければならない。
自転車が例外的に歩道を通行できる場合
自転車が例外的に歩道を通行できる場合として、道路交通法63条の4第1項に以下の定めがあります。
①道路標識等により普通自転車が当該歩道を通行することができるとされているとき
歩行者と自転車が書かれた標識で、自転車も歩道を通行できることを意味します。
このような標識があれば自転車も歩道を通行することができます。
標識を見つけられない場合や、標識が事故現場を対象にしているかわかりにくいときは、警察に確認すれば自転車通行可の歩道であるか回答してもらえます。
裁判で自転車通行可であること(自転車通行可でないこと)を証明するときは、刑事記録にある捜査報告書を利用したり、弁護士会による照会手続きで得られた回答を提出するなどします。
②当該普通自転車の運転者が、児童、幼児その他の普通自転車により車道を通行することが危険であると認められるものとして政令で定める者であるとき
道路交通法施行令26条は、②にある「政令で定める者」として、ⅰ児童及び幼児、ⅱ70歳以上の者、ⅲ普通自転車により安全に車道を通行することに支障を生ずる程度の身体の障害として内閣府令で定めるものを有する者と定めています。
児童とは6歳以上13未満の者、幼児とは6歳未満の者をいいます。
③前2号に掲げるもののほか、車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき
車道の通行が危険な状況で、歩道を通行することをやむを得ないと考えられるときです。
自転車が歩道を通行する方法
自転車は中央から車道寄りの部分(道路標示で普通自転車通行部分の指定があるときは、その指定部分)を徐行しなければならず、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げるときは一時停止しなければならないとされています(道路交通法63条の4第2項)。
最近は、中央から車道寄りの部分に、自転車通行部分としてペイントされている歩道も増えてきています。
歩道上の歩行者と自転車が衝突した事故の過失割合は?
自転車と歩行者の歩道上の事故の過失割合については、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版」で基本過失割合と修正要素が示されており、裁判でもこれを重視した判断がなされます。
歩道上にいる歩行者に自転車が衝突した事故について、基本過失割合、修正要素を解説していきます。
自転車と歩行者の事故の過失割合については「自転車と歩行者の事故の過失割合を事例で解説」で詳しく解説しています。
基本過失割合
歩道の歩行者に直進する自転車が衝突した事故では、基本過失割合が自転車100%対歩行者0%とされています。
道路交通法で、歩道では歩行者が優先と定められているため、基本的には歩行者に過失がないとされているのです。
修正要素
基本過失割合を、歩行者とって有利、不利に修正する修正要素について解説します(修正要素の一部を紹介しています)。
急な飛び出し
歩行者に「急な飛び出し」が認められたときは、歩行者に不利に5%の修正を行うこととされています。
「急な飛び出し」とは、歩行者が大きくふらつくなどして、自転車の前方に急に飛び出してきた場合を想定しています。
自転車がその動きを予見し、衝突を回避することが困難であったといえるほど、歩行者が予想外の動きをしたといえるかが問題となります。
ただし、自転車が徐行をし、歩道の中央から車道寄りを走行していることが前提となり、自転車がこうしたルールを守っていないときには「急な飛び出し」による修正は行われません。
児童・高齢者
歩行者が児童、高齢者であるときは、歩行者に有利に5%の修正を行うとされています。
例えば、歩行者に「急な飛び出し」が認められても、歩行者が児童、高齢者であるときは、修正要素が打ち消し合い基本過失割合のままとなります。
児童、高齢者については、弱者保護の観点から5%の修正を行うものです。
過失割合が争われた事例
①大阪地裁平成25年10月3日判決(自保ジャーナル1918号)
歩行者と自転車が歩道上で正面衝突した事故で、歩行者につき過失相殺を認めませんでした(歩行者の過失割合0%)。
歩道上の歩行者につき過失相殺が認められるのは「自転車通行が許されている歩道であることを前提に、自転車において、徐行や車道寄りの部分通行など、自転車に要求される一切の義務を十分履行しており、かつ歩行者においてわずかな注意を払い、事故が発生しないよう通常の歩行方法をとることのみによって事故を回避できたのに、そのような注意を払わずに突然ふらつくなど、歩行者側に著しい前方不注視があり、かつ自転車側において予見が著しく困難といえるような不正常な歩行態様が認められる場合に限られる」との判断基準を示しています。
②東京地裁平成26年9月30日判決(ウエストロー)
歩道上で急に向きを変えた歩行者に自転車が衝突した事故で、歩行者につき過失相殺を認めませんでした(歩行者の過失割合0%)。
裁判所は「歩行者がわずかに注意すれば事故を回避することができる場合には,歩行者にも落ち度が認められるべきと解されるところ,本件では原告は横断歩道を横断するためその方向へ進路を変えたものであり,本件事故現場付近の状況に照らすと予測可能な範囲の行動であること,被告自転車が前方を歩行する原告の動きを認識することは容易であるのに対し,原告が後方から走行してくる被告自転車の動きを認識することは容易でない」として、歩行者の注意の程度や、自転車からみて予測可能な行動であるかなどを考慮しています。
歩行者が歩道に進入して自転車と衝突した事故の過失割合は?
基本過失割合
歩行者が道路外から歩道に進入し、歩道を通行する自転車と衝突した事故では、基本過失割合は自転車100%対歩行者0%とされています。
歩道は歩行者が優先とされているため、歩行者が歩道に進入した事故でも基本過失割合は100対0とされているのです。
修正要素
急な飛び出し
歩行者が歩道に進入したときに、自転車の前方に急に飛び出す「急な飛び出し」が認められるときは、歩行者に不利に10%の修正が行われます。
ただし、自転車が歩道を通行するときのルールを守っていることが大前提となり、自転車がルールを守っていないときには「急な飛び出し」による修正は行われません。
自転車は歩道の中央より車道寄りを徐行しないといけないため、歩行者の「急な飛び出し」は簡単に認められるものではありません。
歩行者が建物から出てきたときなど、保険会社は安易に「急な飛び出し」を主張していることも少なくないため、本当に「急な飛び出し」が認められるケースなのか十分に検討する必要があります。
住宅街・商店街等
歩道が住宅街や商店街などにあるときは、歩行者に有利に5%の修正が行われます。
歩行者が歩道へ進入してくることが容易に予見できますし、自転車はより慎重に走行しなければならない場所といえるからです。
過失割合が争われた事例
①大阪高等裁判所平成29年9月21日判決(ウエストロー)
お店から歩道に出てきた歩行者と自転車が衝突した事故で、歩行者につき過失相殺を認めませんでした。
裁判所は、衝突地点を歩道中央あたりと認定し、衝突まで時間的な余裕があったため歩行者が急な飛び出しをしたとはいいにくいとしました。
また、仮に自転車が店舗入り口近くを走行していたとすれば、歩行者と衝突するまで時間的な余裕はなかったといえるが、自転車は歩道中央より車道寄りを走行する義務に違反していたことになると指摘し、いずれにせよ過失相殺をすべき事故ではないと判断したものです。
②横浜地方裁判所平成29年7月7日判決(ウエストロー)
自宅門から歩道へ出た歩行者に坂道を下る自転車が衝突した事故で、歩行者につき過失相殺を認めませんでした。
裁判所は、自転車が歩道を通行するときは歩道の中央から車道寄りの部分(道路標識等により普通自転車が通行すべき部分として指定された部分があるときは、当該指定部分)を徐行しなければならず、また、自転車の進行が歩行者の通行を妨げることとなるときは、一時停止しなければならないとされていることを重視したものです。
歩道上の自転車同士の衝突事故の過失割合は?
自転車同士の事故の過失割合については、「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」を参考にすることが多いため、これに基づき基本過失割合や修正要素について解説していきます。
基本過失割合
歩道上で、対向して走行する自転車が衝突した場合の事故です。
基本過失割合は50%対50%とされています。
両車がほぼ直進して正面衝突をした事故を前提としているため、一方車が進路を変更した事故であれば別の考え方をとることになります。
急な進路変更が行われた場合など、一方車の過失が極端に重いと評価される事故も考えられます。
修正要素
以下の事情が基本過失割合を修正する「修正要素」とされています(修正要素の一部を紹介しています)。
Aの夜間無灯火・・・Aの過失割合+5~10%
Aの高速度走行・・・Aの過失割合+10%
Bの夜間無灯火・・・Bの過失割合+5~10%
Bの高速度走行・・・Bの過失割合+10%
夜間無灯火については、事故発生にどの程度影響したかを考慮して5~10%の修正を行うとされています。
高速度走行については10%の修正を行うとされています。
過失割合が争われた事例
①東京地裁平成24年3月16日(自保ジャーナル1871号)
店舗前の歩道で自転車同士が正面衝突した事故です。
駐輪スペースを探しながら前方をよく見ずに走行しハンドルを左に向けた原告の過失を45%、そのような動きをしている自転車を発見しながら走行してきた被告の過失を55%としました。
②大阪地方裁判所平成30年10月30日判決(自保ジャーナル2036号)
歩道上で自転車同士がすれ違うときの接触事故で、一方が無灯火であった事案です。
相手からの発見を困難にさせたことを理由に、無灯火であった側の過失を60%と判断しました。
まとめ
自転車と歩行者の歩道上の事故では、保険会社から歩行者の過失割合について不合理な主張が行われることが少なくありませんので、きちんと過失割合の考え方を理解して反論していくことが必要です。
また、自転車同士の歩道上の事故では、50%対50%の基本過失割合を修正するために具体的な事故状況が重要となりますので、刑事記録を入手して事故状況を十分に検討しなければなりません。
保険会社から過失割合の提示を受けたら、自転車事故に強い弁護士に相談することをお勧めします。