自転車事故で損害賠償を請求する方法と流れは?

自転車事故では治療費や慰謝料といった「損害」について、加害者(保険会社)に損害賠償を請求していくことになります。

自転車事故では、損害賠償を請求する相手方や、後遺障害を主張する方法など、自動車事故とは異なる問題もあります。

自転車事故の損害賠償についてのお悩みが解決するよう解説します。

自転車事故の損害賠償請求

損害賠償請求

自転車事故の損害賠償請求とは、自転車事故の被害者が、その損害について賠償金の支払いを求めることをいいます。

被害者が損害賠償を請求してきちんと賠償金を受けとるためには、次のことが問題になります。

損害賠償請求の相手方

誰に対して損害賠償請求ができるのかを確認する必要があります。

自転車事故の加害者が保険に加入していたり、賠償金を支払う十分なお金を持っているときには余り問題になりません。

しかし、加害者が無保険であったり、賠償金を支払う十分なお金がないときに、加害者以外に請求することができないかが問題となります

また、加害者が破産をしてしまったり、加害者が小さな子どもで賠償責任を負わない場合にも問題となります。

損害賠償金の額

損害賠償金として請求できる金額を計算する必要があります。

損害賠償金を計算するときは、具体的な根拠、資料に基づいて計算しなければなりません。

そのため、損害賠償金の額について具体的な交渉ができるのは、治療が一区切りしてからとなります。

また、損害賠償金を計算するときに、後遺障害が認められるにより大きく金額が変わりますので、後遺障害を主張する方法も問題となります。

損害賠償請求の方法

損害賠償金として計算した金額を、具体的にどのように請求していくかが問題となります。

加害者が保険に加入していれば、示談交渉による解決を目指し、話し合いがまとまらなければ裁判を検討するという流れになります。

加害者が保険に加入していない場合には、そもそも話し合いが難しく、十分な話し合いができないまま裁判をしなければならないこともあります。

損害賠償を請求する相手方

自転車事故の加害者

自転車事故の損害賠償は、基本的には加害者に請求することになります。

自転車事故の加害者は、過失によって被害者に怪我をさせているため、民法709条によって損害賠償を行う義務があるとされているからです。

加害者が自転車保険に加入しているときは、加害者が支払うべき賠償金について、保険会社が保険金を支払うことになります。

この場合は、自転車保険に示談代行サービスがあれば保険会社と交渉し、示談代行サービスがなければ加害者本人と交渉することになります。

加害者の使用者

自転車事故の加害者がお店などの従業員のときは、従業員を使用する事業主(使用者)が損害賠償責任を負うことがあります

これは使用者責任(民法715条)というもので、①従業員に責任が認められ、②使用関係があり、③業務遂行中の事故であると認められれば、事故を起こした人と同様の損害賠償責任を負うことになります。

自転車事故の加害者が無保険で、お金もなくて十分な支払いを受けることが期待できない事件では、使用者に責任を追及していくことが考えられます。

事業主は、自転車事故に限らず仕事上の賠償責任について保険に加入していることが多いので、保険により賠償を受けられることが多いように思います。

子どもの親の責任

子どもが起こした自転車事故で、子どもの親が損害賠償責任を負うことがあります。

自転車は小さな子どもでも運転できるため、自転車事故の加害者が未成年者であることも少なくありません。

民法712条は「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」としており、未成年者に「自己の行為の責任を弁識するに足りるだけの知能」(責任能力)がなければ損害賠償の責任を負いません。

裁判所が責任能力を認める境界線は12歳~13歳程度といわれていますが、12歳7か月の少年の責任能力を否定した裁判例、11歳1か月の少年の責任能力を肯定した裁判例があり、事件ごとに個別に判断されることになります。

未成年者に責任能力が認められない場合、民法714条1項により基本的には親権者等が責任を負うこととなります。

未成年者と親権者等のどちらが責任を負うか判断が難しい事件では、両方を被告として裁判を起こすことが考えらえます。

損害賠償としてどのような請求ができるか

自転車事故の損害賠償金の計算では、治療費や慰謝料などを個別に検討し、それを合計して総損害額を算出します。

損害賠償金の内訳である損害費目には以下のものがありますので、主なものについて解説していきます。

  • 治療関係費
  • 入院雑費
  • 交通費
  • 付添看護費
  • 将来の介護費
  • 装具・器具購入費等
  • 家屋改造費等
  • 葬儀関係費
  • 休業損害
  • 後遺障害による逸失利益
  • 死亡による逸失利益
  • 死亡慰謝料
  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料

治療関係費

病院に支払う治療費や、薬局で支払う薬代など、治療に関係する費用を損害賠償として請求することができます。

治療で健康保険を使用したときは、健康保険の3割負担額について請求することになります。

健康保険から支払われた7割部分については、健康保険から加害者へ請求されることになりますので、加害者が得をすることにはなりません。

被害者にも過失が認められる事故では、「治療費の7割の部分について被害者が負担しないといけないのだろうか?」と不安に思われるかもしれませんが、7割部分について被害者が負担することはありません。

治療費の3割部分についてだけ過失相殺を行い、7割の部分については無視する計算で問題ありません。

入院雑費

入院中に必要となるテレビカードやクリーニング代などの雑費として、1日あたり1500円を請求することができます。

この金額を超えるような特別な事情があれば、領収書等で立証する必要があります。

交通費

入院や通院のときの交通費は、実費に相当する金額が損害賠償として認められます。

利用した交通機関、駅名、料金等を表にまとめて請求します。

電車、バス代については領収書は不要ですが、自宅と病院間の移動ではないとき(職場から病院に行ったとき)などはきちんと説明をする必要があります。

タクシー代については、怪我の内容、程度、交通の便などから必要性、相当性が求められ、領収書によって金額を証明する必要があります。

自家用車はガソリン代と駐車場代が認められますが、駐車場代については領収書が必要です。

駐車場代の領収書は全て保管していなくても認められることがありますが、やはり全て保管しておいた方が無難です。

付添看護費

入院や通院のときの付添に要した費用です。

家族が付添をしたときは、入院付添6000円、通院付添3000円が認められ、仕事を休んで付添をしたときは休業による損害が認められます。

仕事を休んだことによる損害を主張するときは、職場で「休業損害証明書」を作成してもらいます。

付添費については、医師の指示があった場合、症状の内容、程度、被害者の年齢等から必要性が認められる場合とされていますので、保険会社と必要性について激しい争いになることが少なくありません。

一方で、小さな子どもや高齢者の通院に付き添った場合など、明らかに一人での通院が難しい場合は保険会社も認めやすい傾向があります

休業損害

自転車事故による怪我で仕事を休んだ場合、仕事を休んだことによる損害として休業損害を請求することができます。

給与所得者であれば、職場で「休業損害証明書」を作成してもらい、給与の減額について請求することになります。

有給休暇を使用すると給与の減額はありませんが、それによって有給休暇が減ってしまうため、無給で休んだときと同様に休業損害を請求することができます。

主婦(夫)についても、怪我により家事労働に支障が生じたとして休業損害を損害賠償として請求することができ、住民票等で同居家族を証明することになります。

後遺障害逸失利益

自転車事故による怪我で後遺障害が残ったときには、仕事をする能力が低下したとして「後遺障害逸失利益」を損害賠償として請求することができます。

後遺障害等級によって一定の基準がありますが、仕事内容、後遺障害の程度によって、基準を上回る請求を行うこともあります。

自転車事故では、自賠責保険で後遺障害を認定してもらうことができないため、どのような手段で後遺障害を主張していくのか検討する必要があります。

入通院慰謝料

自転車事故で怪我をしたことについての慰謝料を損害賠償として請求することができます。

慰謝料には3つの基準があり、保険会社からは自賠責基準か保険会社基準で計算した慰謝料が提示されることになります。

裁判基準で計算した慰謝料を請求しないと損をする可能性があるので注意が必要です

後遺障害慰謝料

自転車事故による怪我で後遺障害が残ったことについての慰謝料を損害賠償として請求することができます。

後遺障害が認められると、後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料を請求できるようになりますので、賠償金額が大きく増えます。

後遺障害慰謝料にも3つの基準があり、裁判基準で計算した金額を請求しなければ損をする可能性があります

損害賠償金が支払われるまでの流れ

自転車事故で怪我をしても、すぐに賠償金が支払われるわけではありません。

賠償金が支払われるまでの流れについて説明します。

自転車事故の直後

自転車事故に遭ったら、すぐに警察に通報することが必要です

そして、自転車事故の加害者に、自転車保険に加入しているか確認しましょう。

加害者が保険に加入していれば、保険会社が損害賠償について対応してくれることになります。

また、事故で怪我をしているときは、警察に診断書を提出して人身事故にすることが重要です。

自転車事故だからといって物損事故にしてしまうと、事情聴取や、実況見分が行われず、過失割合について争いになったときに不利益を受ける可能性があります。

病院での治療

自転車事故で怪我をしたら、すぐに病院で治療を受ける必要があります。

事故から時間があいてしまうと、事故によって怪我をしたのか争いになる危険があるためです

加害者が自転車保険に加入しているときは、保険会社が治療費を病院に払ってくれます。

ただし、労災保険を使用できるときは、治療費も労災保険を使用すべきでしょう。

また、怪我をして仕事ができなくなったときは、休業損害について保険会社から支払いを受けます。

自転車事故の損害賠償金は、基本的には示談をしたときにまとめて支払われることになりますが、治療費や休業損害については治療中でも支払いを受けることができます

症状固定

治療を続けていると、治療が一区切りとなる「症状固定」のタイミングがあります。

怪我による症状などが残っているときは、後遺障害を主張するために後遺障害診断書を作成してもらいます。

自転車事故で後遺障害の主張をするときに、労災で後遺障害の認定を受けていると損害賠償請求でも大きな意味を持つことになりますので、通勤中の自転車事故などでは必ず労災を使うようにしましょう

示談交渉

保険会社と損害賠償金の額について交渉します。

保険会社から提示される金額は、慰謝料が保険会社基準になっているため、裁判基準の慰謝料にするよう交渉することが必要となります

また、自転車保険に「示談代行サービス」がついていないときは、保険会社が示談交渉をすることができないため、加害者と交渉をして保険金の支払いを受けることになります。

加害者と交渉するといっても、加害者も適正な賠償金額を判断することは出来ませんので、加害者を経由して保険会社と資料をやりとりし、賠償案の提示を受けるという流れになります

裁判

保険会社との示談交渉で解決できないときは、裁判を起こすことになります。

自転車事故の賠償金の増額のためにできること

自転車事故の損害賠償金は、損害費目を積み上げて計算するのですが、損害費目のなかでも慰謝料後遺障害(逸失利益、慰謝料)過失割合が変われば、賠償金額が大きく変わります。

損害賠償金を増やすために検討することについて解説していきます。

慰謝料

保険会社が提示する慰謝料は、自賠責基準、保険会社基準という低い金額の基準で計算されているので、これを裁判基準にすることで賠償金額が大きく増えることが期待できます

裁判基準の入通院慰謝料は、入通院慰謝料の算定表の金額に基づいて計算します。

大阪地裁における算定表はこちらです。

慰謝料の算定表の縦軸に通院期間、横軸に入院期間の記載があり、自転車事故で入院、通院した期間に対応する金額が慰謝料額となります。

また、むち打ちで他覚所見のない場合など、軽度の神経症状では慰謝料額が3分の2程度とされます。

「他覚所見がない」というのは、レントゲン検査、MRI検査などで異常がないことをいい、むち打ち、打撲、捻挫などがこれにあたります。

被害者がご自身で保険会社と交渉し、慰謝料を裁判基準にするよう求めても、担当者は「これは裁判になったときの基準です」と言って全く取り合ってくれないはずです。

弁護士であれば、示談できなければ裁判を起こすことが可能なので、交渉段階でも裁判基準で慰謝料を認めるよう交渉が可能です。

後遺障害

自転車事故による怪我について後遺障害が認められると、後遺障害慰謝料後遺障害逸失利益を請求できるようになりますので、損害賠償金が大きく増えることになります。

自転車事故で後遺障害を主張する方法には次のものがあります。

  1. 加害者の保険会社による認定
  2. 人身傷害保険での後遺障害の認定
  3. 労災での後遺障害の認定
  4. 傷害保険での後遺障害の認定
  5. 裁判での後遺障害の主張

労災保険を利用できる事故であれば、③労災で後遺障害の認定を受けて、これを根拠に保険会社と交渉していくことが考えられます。

自転車事故でも使える②人身傷害保険がある場合は、人身傷害保険で後遺障害の認定を受けることができれば、加害者の保険会社も認定について争わない印象です。

こうした保険がない場合は①加害者の保険会社による自社認定によることになります。

加害者の保険会社は、自社内で顧問医の意見を踏まえつつ審査を行ったり、自賠責調査事務所の「後遺障害認定サポート」を利用して審査を行っています。

被害者としては、①加害者の保険会社による自社認定で満足いく認定が得られなかったときは、⑤裁判を起こして後遺障害の主張をしていくことになります

なお、④被害者が加入している傷害保険での後遺障害の認定ですが、加害者の保険会社との交渉では余り認定結果が尊重されない印象です。

過失割合

被害者にも過失が認められると、治療費や慰謝料などの損害を合計した金額から、被害者の過失分が減額されることになります。

これを過失相殺といい、被害者と加害者にどれだけ過失があるかという割合を過失割合といいます。

損害総額から過失割合分が引かれてしまうため、過失割合が少し変わるだけで損害賠償金は大きく変わることになります。

自転車事故で過失割合を争うには、事故状況に争いがあるか、基本過失割合が当てはまる事故状況か、類似の裁判例はあるかといった検討を行い、少しでも被害者に有利な事情を主張していくことになります。

自転車事故の事故状況は定型的なものばかりではないため、自動車事故の過失割合よりも判断が難しいものが多く、過失割合の争いが激しいときは弁護士に相談することをお勧めします。

損害賠償請求の時効

自転車事故の損害賠償請求権には時効があります。

時効の起算点

時効の起算点は次のとおりです。

①物的損害

⇒事故の翌日から起算されます。

②人的損害

⇒症状固定日や治癒日の翌日から起算されます

ただし、後遺障害が認められない場合には、事故日の翌日から起算されるという説もあるため注意が必要です。

時効期間

時効期間については、2020年4月の民法改正により次のとおりとなりました。

①怪我をしたことによる損害など人的損害

⇒時効期間は5年間です。

②自転車の損害など物的損害

⇒時効期間は3年間です。

人的損害と物的損害の時効期間に違いがあるため注意が必要です。

自転車事故と弁護士費用

自転車事故の賠償金を増やすためには、弁護士に依頼して慰謝料を裁判費用で計算したり、後遺障害が認められるよう活動したり、過失割合についても強く争っていく必要があります。

弁護士に依頼すると弁護士費用がかかってしますのですが、加入している保険に弁護士費用特約があれば、保険金として弁護士費用の支払いを受けることができます。

最近は、自転車事故でも弁護士費用特約を使用できる保険も増えているようなので、ご自身やご家族の保険を確認することをお勧めします。

まとめ

自転車事故で怪我をしたときは、加害者に対して損害賠償請求をすることができます。

損害賠償として請求できるものには、治療費、慰謝料などがあり、治療が終了してから加害者(保険会社)に対して請求することになります。

自転車事故の損害賠償金については、弁護士に依頼することによって増額できる可能性があります。

自転車事故では、慰謝料、後遺障害、過失割合など、ご自身での交渉では限界のあることも多いため、弁護士に依頼することをお勧めします。