8/5 後部座席のシートベルトの不着用と過失相殺

Category - 交通事故 作成者:髙橋 裕也

 運転席や助手席に座っていた者がシートベルトを着用しておらず,シートベルトを着用していなかったことにより損害が拡大した場合(より酷い怪我を負うことになった場合),交通事故の裁判では5~20%程度の過失相殺がなされることになります。

 これは,運転席,助手席のシートベルトの着用義務は一般に社会に定着していること,シートベルトは自らの生命身体を保護するものであり,これをあえて着用せず危険な状況で事故に遭い損害を受けた以上,損害賠償額が減額されてもやむを得ないという考えによるものです。

 では,後部座席に座っていた者がシートベルトを着用していなかった場合,運転席,助手席に座っていた者の場合と同様に過失相殺がなされるのでしょうか。

 以前は,後部座席に座る者のシートベルト着用は一般化し,社会的にみて常識的になっているとまではいえないとして,過失相殺をしないのが一般的だったのですが(大阪地裁平成10年5月18日判決,東京地裁平成15年5月8日判決等),改正道路交通法により平成20年6月1日から後部座席のシートベルト着用も義務化されたことにより,裁判所の考え方も変わってきているようです。

 東京,大阪,名古屋,横浜の裁判所の中で,交通事故を扱っている裁判部に所属している裁判官の意見をまとめた「交通事故損害賠償実務の未来」(法曹会)という書籍があるのですが,いずれの裁判所の裁判官も後部座席に座る者のシートベルト着用が義務化されたことを踏まえ,シートベルト不着用の場合に過失相殺を行うことについて積極的に考えているとのことでした。

 実際に過失相殺がなされるかについては,個別の事情を踏まえた判断になると思いますが,裁判所がそうした考えを持っていることを意識する必要はあると思います。